[BMW]がスキ!
[BMW]がスキ!
00001 AKIHIRO DOI

[BMW]
がスキ!

profile

土井章弘

明治大学 農学部 食料環境政策学科 4年 大阪府出身
幼少期からBMWや乗り物をこよなく愛し、専門誌にも連載を持つ。BMWのトップセールスマンを目指して就職活動中。(以上は取材当時)

 都内某所。レーシングカーのような爆音を轟かせながら現れたのは、一台の1994年式BMW M3(特別にチューニングされたBMWのスポーツ仕様車)だった。そのオーナーであり、大学生にしてBMWの専門誌にも連載を持つほどBMWに心酔する土井章弘さんが、今回の主人公だ。なぜ彼はそこまでBMWにのめり込んでいるのか。そこからどんな世界が見えているのか。その問いの答えを探るインタビューを通して、一プロダクトやクルマという世界を越えた様々なヒントが見えてきた。

chapter 1

「楽しい」という
機能をもつクルマ

「楽しい」という機能をもつクルマ

いかに快適かを突き詰めたクルマがベンツだとすれば、いかに楽しく走るかを突き詰めているのが、BMWだと言えると思います。その考え方はエンジンにも表れていて、例えばBMWは直列6気筒というタイプのエンジンが基本なんですが、業界的にはもっとスペース効率が良かったり軽量になる構造のエンジンが今や主流です。そんな中でBMWは、多くのデメリットに目をつむってでも、滑らかに加速していく楽しさを体感できる直列6気筒エンジンにこだわっているんです。通称「シルキーシックス」って呼ばれています。

— ドイツ車なので「合理的」なものづくりという印象がありますが、
BMWの場合は
「楽しい」ということも
「合理的」に含まれていて、
むしろ大事な要素に
なっているわけですね。
そんなBMWの中でも
94年式M3に乗っているのは
なぜですか。

吸気バルブ(編集部註:エンジンの燃焼室に空気を入れるためのフタのような部品。空気の入れ方によって燃焼効率が変わったり、出せるパワーが変わったりする)の操作が、電子式ではなくワイヤーで機械式になっている最後の年式なんですよ。ワイヤーで物理的につながっているんで、僕自身の微妙な操作がクルマにダイレクトに伝わります。それ以外にも、今のクルマって、ちょっと滑りそうになるとすぐ電子制御で自動的に調整されちゃうんですけど、このM3はそういうことが無いんで、全部自分次第なんですよね。この便利過ぎないところがいいんです。それが、カラダとクルマが一体になるような感覚をもたらしてくれて楽しいです。

「楽しい」という機能をもつクルマ

— 「便利過ぎないおかげで楽しい」って、すごく現代的ですね。
都市の若い人があえて地方に移住する現象や、デジカメの高機能化の一方で
トイカメラや使い捨てカメラも結構売れている現象と通じるものを感じます。

あとは、馬力もちょうどいいですね。このM3は300馬力ほどなんですけど、だいたい300馬力くらいが、普通の人が扱える限界なんですよね。だからフェラーリとかは馬力がありすぎて、プロドライバーとかでもない限り、楽しみ尽くせないと思います。

— クルマを楽しむなら目安は300馬力。覚えておきます。

chapter 2

無に至る歓び。
BMW

無に至る歓び。BMW

— ところで土井さんは
サーキットで
タイムトライアルをしたり
レースにも出場している
とのことですが、
どういった魅力があるんでしょうか。

死ぬギリギリに迫れる快感がたまりません。クルマの限界を相手にする以上、生きるか死ぬかの裁量がすべて自分にあるわけです。そのひとときは、怖いというよりも、自分自身が空っぽになれるというか、無になることができます。だから「生きる」か「死ぬ」かの「死ぬ」に自分をなるべく近づけていっています。そして、サーキットで走るときは、瞬時に判断しないといけないので、頭で考えても間に合わなくて、もはや身体感覚で運転している状態です。

無に至る歓び。BMW

サーキットの小石がつけた
無数の傷は、
走り屋の勲章だそう

— 禅の世界みたいですね。
M3で爆音をぶっ放す僧侶は
いないと思いますけど。

僕自身、親に対して「これしたい」という要望はだいたい通るような甘やかされた環境で育って、それはそれで味気無いなって思ってしまって。だから逆に、自分に思い切り厳しくして、自分自身を追い詰めるのが気持ちいいんです。大きいにしろ小さいにしろ、「自分の力」をリアルに実感できます。

— そういうこと
一回言ってみたいです。
ちなみにそういうガチな時以外の
普段も車移動ですか。

ええ。大学にもBMWで通っています。大学の隣に駐車場借りていますから。あと、サーキット以外でもわりとガチになるシーンはありますけどね。ちなみに以前高速道路で速度的なアレで色々ありまして、僕以下、孫の代まで警察官になれません。

— ちょっとどこから
突っ込んでいいか分からないですが、
この一台とそんな暮らしを
しているんですね。

あ、ちなみに僕2台持ってます。

— え?あ、BMW以外にも
お持ちなんですね。

いえ、どっちもBMWです。同じモデルの前期型と後期型(編集部註:アプリケーションなどの1.0と1.1の違いに近く、改良前のものと改良後のものを同時持ちすることは通常無い。)です。前期型はエンジンの材質上、高回転にも耐えられるので、主にサーキット用に使っていて、後期型は低速域でもパワーがあって、普段使いで乗っています。同じBMWでも特性がちょっと違うんで両方必要です。

— 発想がアラブの富豪ですね。

chapter 3

俺だったら
もっとたくさん
クルマ売れるのに。

俺だったらもっとたくさんクルマ売れるのに。

— そんなBMWフリークな
土井さんは、将来仕事でも
BMWと関わっていきたいですか。

はい。特にクルマの販売をやりたいです。

— クルマを作る側よりも、
売る側に興味があるんですね。
ちょっと意外でした。

大学1年の時、学生は通常雇っていない、ある大手輸入車ディーラーに頼み込んで頼み込んでアルバイトさせてもらっていたんですけど、そこでお客様のお車を移動する作業を担当していて、フェラーリからランボルギーニからミニバン、軽トラまであらゆる車を運転したのは楽しかったです。でもそれ以上に、自分だったらもっとうまくクルマを売れるのにって思ってしまいました。実際、多くの営業マンは値段とスペックの話ばかりで、全然そのクルマの魅力が伝わっていなそうでした。売る側がそんなモードでは、そりゃあ買う側も値段とスペックで機械的に選んでしまいますよね。BMWに限らず、「せっかく面白いクルマ売ってるのに、そんな売り方じゃ宝の持ち腐れじゃないか」って思うシーンが少なくありませんでした。

俺だったらもっとたくさんクルマ売れるのに。

— いいですね。
ケンカ売ってますね。
土井さんだったらどう売りますか。

例えばお客様が今お乗りの車を聞いた上で、「普段乗っていてこんなシーンはありませんか?こちらの車であれば、もっとこうですよ」というように現在とどう変わるかという話をするとか、「数字の上ではあっちの車のほうが良いように見えますけど、こっちのはこんな気持ち良さがあるんですよ」というように、客観的な情報にとどまらず、感覚的な部分も含めて魅力を伝えて行きたいです。

— 行動経済学の領域とかは
まさにそうですけど、
人間、重要な選択の場面であっても、
結構論理よりも感覚が
物を言ったりするんですよね。

chapter 4

僕、林を開拓して
道を造っています。

僕、林を開拓して道を造っています。

ハンドルを握ると顔がマジになる土井さん

若い人のクルマ離れみたいな話がありますけど、若い人がクルマの気持ち良さや楽しさを一度体感してしまえば、流れが変わったりする気もしています。例えばドリフトし放題のスペースとか、運転を思い切り楽しむテーマパークみたいなものが作れたら、面白いと思います。というか、そういう場所って今本当に無いんで、クルマ好きにとっても魅力的なんじゃないでしょうか。僕はクルマ以外にもマウンテンバイクとかも好きで、自分で自転車売ったり、自転車を楽しむための道造ってたりするんですけど…

— サラッとすごいこと
言いましたね。道ですか?

はい。私有林なり県有林なりの所有者に許可をとって、道を開拓しています。2年越しの交渉の末に道を造らせてもらえたこともありましたね。もうすぐビジネスとしても始めようとしています。そういう遊び場、魅力を体感できる場があることが重要だと思います。
運転が手段でしかないのは、本当にもったいないと思っていて、そういうところに一石を投じたいですね。

— 現にロードバイクは
移動手段としての自転車を越えて、
エンターテイメントとして
消費されているとも
言えるでしょうから、
クルマも
そういうふうに楽しんだら、
世界が拡がりそうですね。
クルマって元々
そうだったわけですし。

ボロくても楽しいクルマだってたくさんありますし、クルマの楽しさを味わう人がもっと増えたら僕も嬉しいです。BMWに乗っていると、有名な音楽家の方とか、結構いろんな人とBMWのオーナー仲間ということでフラットにつながって、お互い情報交換できたり、同じ悩みや喜びを共有できたりします。BMWというフック一つで、普段なら接点を持たないような人とつながれるのが、刺激的ですね。そういう面白いコミュニティを作る力も、クルマのパワーなんじゃないでしょうか。

僕、林を開拓して道を造っています。

エンジンの話に始まり、生と死、
コミュニティ論まで発展した
本インタビュー。
取材後、爽やかに去って行く
土井さんだったが、
お気に入りのサウンドを放つ
愛車のマフラーは特注だそうで、
業者の人と
「フェラーリの音が好きなんで、
できるだけフェラーリに
近づけてください」→
「BMWだから無理です」→
「いやそこをなんとか」という
ややムチャなやり取りの末に
実現したんだとか。
事の大小を問わず、そういう
「普通はできないムチャなこと」を
実現するのも、
本人の熱狂的な「スキ!!」の
力なのかもしれない。