[アメリカン・コミックス]がスキ!
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[アメリカン・コミックス]
がスキ!

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松原賢

法政大学 3年 京都府出身。
幼少期にアメリカン・コミックに出会うと、人間の本質に興味を持つようになり、深く哲学するようになる。中でも、自身の生き方について考えるきっかけをくれた『キャプテン・アメリカ』『アイアンマン』に心酔しており、留学先のアメリカでは勉学そっちのけで、大量にアメコミグッズを購入して帰ってきた。将来の夢は、人材業界に進み『_この業界といえば松原』と言われるようになること。(以上は取材当時)

 待ち合わせの場所に、無邪気な笑顔をした青年がやってきた。松原賢さん、アメリカン・コミックス(以降、アメコミ)を敬愛する大学生だ。アメコミヒーローのように鍛え上げた筋肉を見せるため、着るのはいつも小さいサイズのスーツ…と言えば、愛の深さが分かるはずだ。アメコミは海外の漫画であるにも関わらず日本でも強い人気を誇っているが、松原さん曰く、その要因はヒーローの格好いい姿に惹かれるからではなく、むしろその反対の「ダサい」部分にあると言う。松原さんの考える「ダサい」の魅力とはどんなものなのか、アメコミヒーローの本性を解き明かしながら探っていく。

chapter 1

「ダサい」は、人気獲得のスパイス

— アメコミヒーローの魅力が「ダサい」部分にある、ということですが、まずは、具体的にどういったところをダサいと感じているのか、教えてください。

例えば、キャプテン・アメリカは女性経験の少なさを指摘されると、非常にうろたえます。アイアンマンも女性関係で問題あり、ですね。スパイダーマンのように、もともと弱虫な凡人が突然ヒーローになるケースでは、その力を私欲に使ってしまったり。これらは、一般人からしてもダサい、と呆れられる行為です。

— なるほど。ではなぜ、それが人気の秘訣と言えるのでしょうか。

日常生活ではダサい反面、いざという時には誰よりも頼れる、という二面性が見る者に親近感を与えるからだと思います。私たちも、仕事や勉強に励む一方、つい怠けてしまうことがありますよね。ヒーローに自分を重ね合わせることができるのがアメコミの魅力であり、人気の秘訣と言えます。

— 格好いいだけでは、ここまで人気が出なかった?

当然、一定のファンを獲得するために「格好いい・可愛い」のような人々の目を引く要素を取り入れることは重要です。しかし、それだけでは少し遠い存在になってしまうのかな…とも思います。例えば、爆発的に人気を得たゆるキャラ。可愛い外見が目を引きますが、短足で階段を上がれない、突然こけてしまう、などダサい面も持ち合わせています。「ダサ可愛い」という言葉からわかるように、「ダサい」が「可愛い」を引き立たせるためのスパイスになっていると言えそうです。

chapter 2

日本は「ダサい」を発信できる国

そういえば、以前、アメリカに留学していたとき、「ダサい」を言い表す言葉がないように感じました。近い言葉はあると思うのですが、しっくりくる表現には出会ったことがありません。

— では、本場アメリカ人は、アメコミヒーローのダサさに気づいていないということですか。

アメコミヒーローに対するアメリカ人の感想って「絶対に負けないヒーロー」とか「常に格好いい」という印象なんですよ。ダサさを直感的に感じ取っていたとしても言い表せないので、格好いい面にしか注目しないんですよね。

— 興味深いです。つまり、日本人の松原さんだからこそ、アメコミヒーローの本性を分析できたわけですね。

そうだと思います。また、これは他の例にも当てはめることができます。
例えば、以前、ランドセルを海外セレブが身につけ、フッションアイテムとして注目されたことがありましたよね。この場合、ランドセルにおける「ダサい」が自然に削ぎ落とされ、可愛さだけが残ったから、と言えませんか。

— たしかに、日本ではランドセルをダサいと言って嫌がる子が多く、カラーバリエーションやデザインの種類を増やさざるを得なくなっていますよね。

他にも、日本人からすると「なぜこれがクール?」「なぜこれがキュート?」と感じてしまうシーンは少なくありません。先ほど「ダサい」をスパイスで例えたのは、その味を知っていれば気づくし、いかなる対象にも取り入れられる術を持ちますが、味を知らない者にとっては隠れた味でしかなく、もっとも目を引く要素にしか気づけない、ということを言いたかったからです。

— 「ダサい」は国性や文脈が変われば、捉え方が変化するというわけですか。面白い発見ですね。

このように日本独特の感覚に気づき、コントロールすることで、海外にもっとアピールできる日本製がある気がします。どうですか、クールジャパンではなく、「ダサーイジャパン」。

— …ネーミングはもう少し考えたほうが良いかもしれませんね。

chapter 3

就活における「ダサい」の重要性

— 冒頭からダサいダサいと連呼してしまいました。

ダサいことに魅力がある、なんて真面目に語るのは初めてです笑
ところで、最近「ダサいをコントロールする」ことに関して気づきがあったので、お話させてください。就職活動についてです。

— だからスーツだったのですね。就活の話は、興味ある方多いと思います。ぜひ、お願いします。

就活では自己PRをする機会が頻繁にありますが、ダサさを垣間見せながら、格好良さをアピールできる学生に話が集まるケースを、何度も見てきました。また、今のは人事から見た学生への印象ですが、逆に学生から見た人事や営業の人も同じです。
魅力的な人ほど、そういうメリハリというか、人間としての振り幅を見せるのが上手い気がします。ダサい面や失敗した過去を開示してから、現在の活動や成果を話してくれる方の話に引き込まれます。
アメコミと同じで、社会で活躍する大人にもダサい部分があるとわかると、格好いい面や親近感をより強く印象付けられるのだと思いました。

— 最近はどの企業も人手不足ですし、同時に、優れた人材の獲得競争も激化しています。「ダサいをコントロールする」ことは就活において、学生側・企業側ともに差別化のポイントになるかもしれませんね。

今、学生から見て、日本企業の多くはダサく見えている気がします。就活では「御社に入ったら、こんな風に貢献できる」と口にする裏で、「まぁ、5年くらいで辞める予定だから」と、自身のキャリアの踏み台とする人は少なくありません。
もっと言えば、大人の多くが若者からは、悪い意味でダサく見えているはずです。日本のメーカーが海外メーカーに買収されている様子や、政治家の支持率がどんどん低下していく様子など、表面的な情報かもしれませんが、どうしてもダサく見えてしまう。でも、それはある意味、格好良いところを強調するチャンスと捉えることができます。
生意気かもしれませんが…大人は若者にとってのヒーローであってほしいな、と素直に思います。

— 松原さんのお話を格好いいなと感じるのも、アイアンマンのアンダーシャツを着ているからこそですね。

それは、このシャツがダサいということですか笑
でも、アメコミヒーローは見た目がどんなにダサくても、人間としての格好よさを持っていますから。僕もそこを目指していきたいと思います。

「松原さんが思う、人間の一番ダサい姿とは「あらゆる外部要因によって身動きが取れなくなった状態」だと言う。他人の目や固定概念、コンプライアンスや予定調和。松原さんにとって、それら、大人になるにつれて増えていく外部要因は、アメコミヒーローを苦しめるヴィラン(悪役)のように見えるのだろう。インタビューで解き明かした「ダサい」のメカニズムは、「格好いい」大人になるためのスパイスになりうるのか。松原さんがきっと、実行してくれるはずだ。