[みかん]がスキ!
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[みかん]
がスキ!

profile

清原優太

東京大学経済学部4 年 農業経済学専攻 東京都出身。
みかんが好きすぎて大学を留年。日本初のみかんに特化した学生団体「東大みかん愛好会」を設立、2年間代表を務めた後引退し、2016年5月、みかんの世界にイノベーションを起こすべく「株式会社みかん」(http://www.mikan-inc.net/)を設立。好きなみかんは甘平。(以上は取材当時)

 東大と聞いて、何を連想するだろうか。最先端研究、官僚輩出機関、外コン・外銀への就職・・・そんなエリートイメージをガン無視する、「東大みかん愛好会」という平和オーラ漂うサークルがある。今回インタビューしたのは、その初代代表である清原優太さん。「愛媛では蛇口からみかんジュースが出る」という都市伝説を東大で実現してみたり、小田原市と大手旅行会社とのコラボレーションで「みかん列車」なる専用列車を走らせるなど、その発想と行動力は、単なるみかんマニアの枠にとどまらない。そんな彼は、どんなことを考え、どのように生きて行こうとしているのか。その頭の中をのぞいてみた。

chapter 1

スキ!なだけじゃ
伝わらない。
ラブ×ロジックで
市民権を得る

スキ!なだけじゃ
伝わらない。ラブ×ロジックで市民権を得る

いま日本で一番食べられているフルーツってなんだと思いますか?答えはバナナなんですけど、一方でみかんの消費量って、全盛期の1 9 7 5 年ごろをピークに7 7 %くらい減っているんですよ。いろんなフルーツが入ってきたり、一家で箱買いするって習慣が薄れてきたりと理由はいろいろあります。

— そんなに減っているとは
知りませんでした。

他の果物も減っているのですが、みかんがここまで減っているのはマーケティングやプロモーションの視点が弱いからだと僕は思います。イチゴならとちおとめ、りんごならフジ、津軽みたいに、ぱっと思い浮かぶ銘柄があると思うんですけど、みかんはあまりそうなっていないんですよね。柑橘産業全体が何もせずに売れていた時代の名残をそのまま引きずってしまっているのではないかと思っています。しかも補助金も大量に出ていたので、需要自体が増えていないのに生産量が過剰に増えてしまったという面もあります。

— 厳しいコメントですね。

はい。こういう状況もあって、東大みかん愛好会は、「日本のみかんの消費量を上げる」という理念を掲げています。生産量じゃなくて、あくまで消費量で、消費者サイドから盛り上げていこうって。カッコつけているようだけど、それが柑橘の世界で本当の課題だったんです。ただ、立ち上げたときは、ただみかん好きがこたつでみかんを食べて、みかんについて語ろうってサークルでした。でも新歓の時期になって、それじゃあ人集まんないよなと思ったのと、東大生ってロジカルじゃない悪ノリをボコボコにしようとする怖い人たちなんで、ただみかん愛を語るだけじゃなくて、理念が必要だなって思ったんです。それで色々調べているうちに、先程の実情を知り、「みかんの消費量を上げる」に行き着いたわけです。そうしたらものすごい反応があって、メンバーの2倍くらいの人が新規入会してくれました。

— 単なる個人的なラブに、
ロジックが掛け合わさったことで、
広く市民権を得たと。

単なる個人的なラブに、ロジックが掛け合わさったことで、広く市民権を得たと。

chapter 2

理由があれば、
人は会ってくれる

理由があれば、人は会ってくれる

清原さんが使うプレゼン資料

大きな理念を掲げて人を集めちゃった分、なんかやらなきゃなと思ってたところに、愛媛県松山市主催で「蛇口からみかんジュースを出す」というイベントが東京タワーでやっていたんで、次の日突撃して、「東大でみかん愛好会というのをやっていて、日本のみかん文化の発展に貢献したくて」といった趣旨でいきなりコラボをお願いしました。そしたら五月祭( 編集部註:東大で毎年5 月に行われる学園祭)でも実施することができて。

— 最初からいきなり自治体に
交渉して企画化したんですね。
行動力もさることながら、
やりたい理由が明確に
プレゼンテーションできたのも
大きそうですね。

蛇口企画はメディアでも取り上げられたりしていて、あとは、日本園芸農業連合会から協力を得て、東大内でみかん5,000個の無料配布を行ったりもしました。

— 布教活動ですね。
聖書の代わりにみかんを配る
スタイルの。

そうやって実績をつくってからは、どんどん営業がしやすくなっていきましたね。「こんなことを考えていて、実際こんなことをしてきた」というのがあれば、相手としても会ってみようかなって思ってくれやすいです。なので、今は人脈づくりに苦労することは、あまりありませんね。その人脈が次の人脈を生んでいます。みかん1万種のストックをもっているみかん料理研究家の方とコラボして、みかん料理をいっぱい考案したりもしました。東大の近くの山手ラーメンには、みかんが入った「みかんラーメン」を置いてもらっています。

布教活動ですね。聖書の代わりにみかんを配るスタイルの。

— あ!あれやっぱり清原さんが
絡んでたんですね。
それだけネットワークが
拡がっていっている今、
どんなことをしようと
しているんですか。

そんなこんなで、今は「株式会社みかん」という会社を起ち上げようとしているところです( 編集部註:取材後、実際に設立に至ったようです。URLはhttp://www.mikan-inc.net/)。みかん愛好会はサークルなので、そこではできない、インパクトの大きいことをやるために、ビジネスという形をとろうとしています。当然、責任の大きさも違ってきますし、恐い気ち、不安な気持ちもありますけど、自分の好きなことで突っ走れるならその幸せの方が大きいです。

chapter 3

スキ!だからこそ
見えてきた、
イノベーションのヒント

スキ!だからこそ見えてきた、イノベーションのヒント

— そもそもなんですけど、
なぜそこまでみかんに
思い入れがあるんですか。

なんででしょうね。原体験みたいなものも無いんで、生まれた時からなんじゃないですかね。僕は0歳から5歳までインドネシアにいたんですけど、そこで初めて覚えたインドネシア語が「オレンジジュースちょうだい」だったそうです。あと、目の前にみかんがあると全部食べ尽しちゃうんで、両親がみかんを隠してたみたいです。

— 畑を荒らす
野生動物みたいですね。

食べ過ぎて一時期肌の色が変わったりもしましたね。でもやめられないんです。まあ親もみかんが好きだったってのもあると思いいますけどねモゴモゴ・・・

スキ!だからこそ見えてきた、イノベーションのヒント

— (この人話しながら
ナチュラルにみかん食べ始めた…
あのみかん、説明用のとかじゃ
なかったんだ…)
ど、どれくらい1日に
食べたりするんですか

1日10個、それを毎日にしたいんですけど、お金の都合もあるんでちょっと我慢して、10個、10個、0個、10個、0個、10個・・・みたいに食べていっています。

— 3日で15~20個だとしても、
年間で2,000個前後ですか。
みかん業界の様々な人たちと
コラボしつつ、いろんなみかんを
食べていらっしゃると思うんですけど、
そういうところから、
みかん農業界に対して、
何か感じるところはありますか。

柑橘産業に僕が感じる課題は2つあります。まず、産地が分断されていて、知見や情報も共有されていないし、消費者にとっても何を選んだらいいか訳分からないと思います。そこに横串を指す存在、プラットフォームのような存在になりたいです。産地と都市部というタテのつながりはできているんですけど、ヨコのつながりがもっと必要だと思うんです。

— ヨコのつながりの
必要性について、もう少し
詳しく教えてもらえますか

僕から見ると「これもっとちゃんと打ち出したら全国に売れるのに!」と思うものも結構あるんですけど、生産者の方としては、他の産地のものを見ないと、自分たちがどう優れているかイマイチぴんとこないんですよね。逆に言えば、横のつながりがあれば、自分たちの価値を再発見したり、互いに触発し合いながら切磋琢磨していくという良い循環が生まれると思います。

— 確かに例えば
ワインの世界だと品評会があって、
各産地や農家同士で、
いい意味の競争が存在しているから、
全体の質が上がっていく
ということが起きていますね。

chapter 4

自分の旗を立てる

自分の旗を立てる

— でも、なかなか
簡単なことではないですよね。

はい。僕がつながっているところや農水省にも食べ比べやりましょうと声をかけましたが、断られました。新しいことをやっていくとなるとどこも腰が重い。

— どうしたらいいんでしょう。

保守的な世界を変えて行くことのコツは、とにかく成功事例をつくることだと実感しています。蛇口みかんの企画もそうですけど、一つ成功例をつくれば、そこから歯車が動き出すんです。
そのとき、自分としての強味をしっかり持つというのも重要です。僕から見てもちょっと頭おかしいレベルの女の子がいるんですけど、首からみかんが実際に入ったみかんネットを着けてたり、最近、自転車乗りながらみかんを食べる技を身につけたらしいです。一時期深刻に落ち込みましたね。自分より圧倒的な上がいるなんて、と。でもふと思ったんです。確かにみかん愛では彼女に勝てない。でも、みかんについての全国的なトレンドや面白い先進事例はたぶん僕が日本一知っていそうですし、団体やプロジェクトのマネジメント、企画力でも自信があります。だから僕はそういう領域でトップになれれば、絶対仕事にもなると思ったんです。

— 切り口次第で、
誰でも第一人者になれる
ということでしょうか。

みんなが登ってる山の上に自分の旗を立てるのは大変ですけど、僕のイメージは山に立てるのではなくて、自分の旗を立てられる場所を地図上で見ながら、そこに自分の山を築くイメージです。そういう自分が輝ける山は、探せばどこにでもあるものだと思っています。それを見つけようとしているかどうかが大切で、ただメインストリームに乗っかっているだけだと見えてこないと思います。就活していない自分が言うのも偉そうかもしれませんが、世間体を気にしたり、そこまで興味なくてもとりあえず内定を採るということが横行しているから、入ってからミスマッチが起きているんじゃないかと思います。そういうのって、ほんともったいないですよね。
自分の旗を立てるというのは、自由を得ることにもつながります。ただ、自由には責任が伴います。だから自分を制御していく強さが必要です。まあ、中途半端にやらずに全力でやれば、辛さを上回る楽しさがあるんで、僕はこの未知を突き進んで行こうと思いますけど。

自分の旗を立てる

自分の旗を立てる。
それを、「自分にしかできない
価値の発揮の仕方を見つける」と
いうことだとすれば、
ニッチな山を築く選択肢を採らない、
ある大きな山のさなかに在る人にも
示唆のある考え方かもしれない。
皆が頂上に到達できるとは限らないが、
皆が知らなかった、
美しい夕日の見える道を
開拓することはできるかもしれない。
中腹に居心地のいい山小屋を
建てることはできるかもしれない。
途中で分岐して、山脈のように、
別の頂上を創れるかもしれない。
すべては自分と世界を見つめる
自らの目次第。ぼくらには今日、
何ができるだろうか。